みたもの備忘録

ジャンルを行き来するオタクの妄言。たまにまじめなこと

舞台「魍魎の匣」

  6/23ソワレを立ち見で観劇。立ち見って初めてだったけれど、小劇場などで小さなパイプ椅子に座ってるよりも断然快適な気がする。前席の人の頭を気にしないで済むし。※ただし姿勢が悪いので背中は痛い

  あまり目が良くないしオペラグラスも使わなかったので顔はあんまり見えていないため、そういう感想はありません。

 

  twitterで、忙しい人のための、なんてジョークで言われているくらい前半はシュルシュルと進んでいくけれど、一番重点を置くべき美馬坂教授の研究所シーンに時間をしっかり割いているので前半駆け足なのはやむなしというか、そうだよなーそうなるよなーと思う。むしろ前半と後半の分配を逆にしたらやたら広げた風呂敷をぐちゃぐちゃっと纏めておしまい、みたいにとんでもないことになってしまうのでは。

 

  原作の大筋を変えないで2時間10分に収めるため、細かいエピソードの取捨選択やキャラの役割変更はあったけれど、それがあまり気にならない範囲に収まっていたのも良かった(個人の感想)(サトに役者を付けるならいさま屋が出てきても良かったんじゃ!?とは思ったけど、最後の最後に1シーンだけの為にいきなり新キャラ登場したら初見の人困るよな……と思い直した)。

  まあ、原作で青木くんだったところがトリちゃんに替わっていたりして、青木くんの出番が少な目なのは少し悲しかったけれど……。

 

  今回立ち見にしてまで観に行ったのは久保役の吉川さんの演技が観たかったからで、そこはもう想定通りの完璧なものを見せてくれたのだけれど、橘ケンチさんのお芝居が予想をはるかに超えて上手くて腰が抜けた。

  上演前からみんなが期待していた反閇の所はもちろんとても上手くて、というか上手すぎてそのキレに若干笑ってしまったけれど、それ以上に言葉の演技が驚くほど好みだった。

  京極堂の語りは呼吸やら間やら抑揚やら、とにかく言葉のプロフェッショナルでないといけない訳で、それが今回の芝居では完璧だったと思う。物語のキーになる台詞を、がなる声量ではなく演技で聞かせてくる。すごい。

  一点だけ、美馬坂教授とのラストの舌戦は機械のゴウンゴウンの音以外にもbgmみたいな音が流れていたので、怒鳴り合い過ぎてウーン……という感じだった。「この僕が言うのです」のところは凄みがありつつ静かで良かったけれど。

  関口くんは元気というか、いつもの調子乗って京極堂に怒られる時のちょっと前のテンションをずっと維持してる感。小綺麗だし。

  榎木津さんはスタイルが良くて、一人だけ自由で、まさに榎木津礼二郎だった。

  木場修もそのまんまだったけれど、尺の問題で陽子(美波絹子)への恋愛感情が唐突感あって惜しい……これは役者さんの問題じゃないので余計に惜しい。

  

  頼子がバラバラにされるところなど、グロテスクというか生々しい場面はあったものの、原作の皮膚に纏わりついてくるような湿度が無かったので、作品全体としてもカラッとしているみたいな感想を抱いた。

  榎木津さんの「口外法度なんだよ」とか、トリちゃんの「あれは僕が原稿を…」とか、原作のクスっとくるシーンもちゃんと折り込んでくれて嬉しい。

 

  細かいところは言いたいこともあるけれど、橘ケンチさんの京極堂があまりにパーフェクトだったのでとても満足した。まだ観ていない人は当日券や立ち見も出ているようなので是非。→6/25に観たらもう神戸しかなかった……