みたもの備忘録

ジャンルを行き来するオタクの妄言。たまにまじめなこと

あやめ十八番『音楽劇 百夜車』

 年に一度のお楽しみ、あやめ十八番の公演が先日無事に終演した。感染者数は減ってきたとはいえ油断できない状況のなか、関係者の皆様お疲れ様でした。

 一昨年の『しだれ咲き サマーストーム』がかなりカラリとした終わり方、昨年の『江戸系 宵蛍』も最後は薄明るく開けるような終わりだったため、こんなにも重くまとわりつくラストは久しぶりな気がする。いい意味でべっとりとしていて爽快感がゼロ(いい意味で?)。

 

 

 

あらすじ(公式HPより引用)

能に描かれた小野小町の伝説、“百夜通い”。
男の求愛を受け入れる代わりに、女が設けた条件は、雨の日も雪の日も、百日続けて通うこと……
現代に蘇る百夜通い伝説。男は週刊誌の記者、女は連続殺人犯。
あやめ十八番が描く新作“擬古典”は、“和のオペラ”とも言われる能を題材にした和製音楽劇。

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『特集!死を招く純愛。千葉連続不審死事件』
交際男性5人、相次ぐ不審死……。
世間を震撼させた“稀代のシリアルキラー”清水謡子の単独取材!
その知られざる生い立ちから、100日間に及ぶ裁判の傍聴記までを完全収録!
取材を続ける中、本誌記者S氏との間に交された秘密の契約とは……?
週刊『明朝』が総力を挙げて送る千葉連続不審死事件・決定版!
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 今回は普段シンガーソングライターをしていらっしゃる浜端ヨウヘイさんがゲイシャパラソル再演に続いて2回目の出演、さらには主演ということもあり、観客層がかなり普段と違う様子。一昨年のサマーストームも藤原祐規さん出演であやめ初観劇という人が多く見られたが、今回はそもそも舞台を初めて観たという感想もTwitterでちらほら。間口が広がるのをリアルタイムで見る面白さ。

 お芝居に慣れていないゆえと思われる台詞回しの朴訥とした感じが、役のぶっきらぼうさにうまくマッチしていたのと、自身の歌で周りをぐいぐい引っ張り上げるところにシンガーの矜持のようなものを感じた。

 

 話そのものについて。

 今感想を書くにあたって考えていたところ、なんとなく、恩田陸の『ユージニア』を思い出した。真実と事実と主観と客観が入り混じって、ほんとうのことは分からないままに終わる物語。遥子の記憶している事実と、証拠から導かれる事実と、私たちが観た事実の間の埋めがたい溝。この終わり方も余計にどろりとした質感を与えているのかもしれない。私はこういう話が大好きです。

 あとTwitterで堀越さんは金子さんをファムファタルにしがち……などとつぶやいたけれど、これまでの作品でそんな感じなのはゲイシャパラソルくらいか。完璧な思い込みだ。

 

 音楽劇という形態については……好きなナンバーといまいちハマりきらないナンバーがあったかな、という感想。もちろん個人の意見。

 自分が台詞の掛け合いを歌にしたような曲が好きなのもあり、法廷の場面は好きだった。あと、金子さんの幼い少女のような歌声を活かせる曲もたくさんあって良かった。逆に拘置所?刑務所?のシーンは(パンフで元ネタに挙げてる作品を観ていないからというのもあるか?)あまりしっくりこなかったかもしれない。こんにゃく座・高岡さんの演技と歌のシームレスさは流石の一言だったけれど。

 

 ここの芝居の面白さは信頼できる、というところがひとつあることの喜びを感じつつ、次回公演を待ちたいと思う。また来年!